伝統的な日本美を備えた耽美的作家・谷崎潤一郎
谷崎潤一郎は早い時期から永井荷風によって賞賛され、
その地位を確立するとともに、自然主義文学全盛時代にあって
物語の筋を重視した反自然主義的な作品を数多く残した。
その作品は耽美的と称され、映画化もされた『痴人の愛』では、
ナオミという日本的な規範には合わないが、美しい肉体を持つ
女性に翻弄されるという男の生き方を克明に描写した。
続いて『卍』、『蓼喰ふ虫』、『春琴抄』などの作品を発表し、
大正期以来のモダニズムと日本の伝統美を追求し続けた。
戦争中の谷崎潤一郎は松子夫人とその妹たちとの生活に
材を取った『細雪』に心血を注ぎ、軍部による発行差し止めを
受けつつも執筆活動を続け、戦後にその全てを発表した。
更にその後も、老いていく自分の内面と向き合いながら
『鍵』、『瘋癲老人日記』といった作品を発表したり、
『源氏物語』の現代語訳に取り組むなど、
その文学活動の幅は広がる一方であった。
また、物語性に偏っていて思想がないと言われることもある
谷崎潤一郎ではあるが、どのような思いで作品を書いたかは
『文章読本』や『陰翳禮讚』などの作品に詳しく書かれている。
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