« 2007年6月 | トップページ | 2009年8月 »

2009年7月28日 (火)

東野圭吾『秘密』

東野作品の数ある特徴の中のひとつに

性の扱い方が他の推理小説家と異なるという

指摘はあまり多くないところかもしれない。

しかしこのことは東野作品について語るときに

どうしても外せないポイントであることは

読者のほとんどが意識しているはずである。

そして性の扱い方に違和感を覚える作品に

運悪く最初に出くわしてしまうと映画の原作として

手に取ったような人にはあまり受けが良くないかもしれない。

特に東野圭吾は原作とテレビや映画の作品が

かなり違っていたとしても寛大なことで有名らしく、

この作品の映画化に関しても、当初からどのような

内容変更も受け入れるつもりでいたような感じが

エッセイなどからもうかがい知ることが出来る。

ただし、私個人としてはこの作品の性の扱いには

なんだか救われるような気がして、好きな作品となっている。

もちろん話の展開や登場人物なども

東野作品としてかなりレベルの高い

作り込まれ方をしていると思うが、

それらを根底で支えているものの存在も

見逃してはならないと思うのである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年7月12日 (日)

東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』

直木賞を取って以後の東野圭吾の躍進ぶりは

目を見張るものがあると言っていいだろう。

それまでも多彩な活動をしてはいたものの

逆にその多彩さゆえに軽く見られていた感は否めない。

ジャンルも本格推理から社会派や科学物までと

幅広くこなし、なおかつエッセイや業界暴露小説も

楽しく読ませてしまうという才能は他の作家を寄せ付けない

レベルの高さだと思われる。

しかしながら、賞に恵まれなかったのは、1つ1つの

作品のレベルが低いというよりは巡り合わせが

悪かったとしか言いようがない。

特に直木賞はコンスタントに良い作品を描く

作家よりは、次は駄作しか描けないかもしれないが

この作品は素晴らしいという作品を描く作家が

割と早く取ってしまう賞であるらしい。

このことは宮部みゆきが直木賞を取るまでに

他の文学賞をほとんど取ってしまい

作家としての地位をしっかりと確立していたことからも

うかがい知ることが出来る。

そんな東野圭吾の作品の中でも特にお薦めなのは

本格推理ではないこの『パラレルワールド・

ラブストーリー』である。

東野は理系作家として科学物を得意としていることは

最近のガリレオシリーズのTVドラマ化を待つまでもないが、

そんな東野が興味を持ち続けている分野に

脳科学という分野があり、この分野ではいくつもの

傑作を生み出しているが、中でもこの作品の出来は

ラブストーリーとしても秀逸である。

出だしの作品の構図を理解するまでは

少し読みづらいかもしれないが、そこさえ越えてしまえば

後は一気に楽しめること間違いなしである。

ぜひとも夏の夜のお供に一読いただきたい作品である。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年7月 5日 (日)

柄谷行人『隠喩と建築』

最も大江健三郎の存在価値を認めていながら

その欠点を指摘することにより

その評価を低くすることに貢献したのは

柄谷行人であるだろう。

このことは理解できる面もあるとはいえ

あまりに不当な現象であったと思う。

柄谷行人にしてみれば大江健三郎ほどの能力のある者が

どうして奇妙な評論活動を展開するのか

理解できなかったのだろう。

そのため他の作家よりは圧倒的にすばらしい作家であった

大江健三郎を批判し続け、他の批評家にも

大江を批判する根拠を与えることとなった。

けれど柄谷本人も後に気づくように

大江ほどの作家は日本にはあまりいないことも事実で

大江の欠点を差し引いたとしても

その力量は他の作家を圧倒していたのである。

それは柄谷が一時期評価していた

内向の世代と呼ばれる一群の作家たちが

その後まったく大江に及ばないどころか

文学的にも高い評価をするのが

はばかれるようになっていくにしたがって

はっきりしていったと言えるだろう。

そんな柄谷だが、その独自の評論活動においては

やはり他を引き離しており、吉本隆明と比較すれば

独自性という点では見劣りするものの

是非読んでおきたい作品群を形成しているといえるだろう。

そしてこの『隠喩と建築』は柄谷作品の本格的な深まりを

告げる格好の入門書となっていると思う。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2007年6月 | トップページ | 2009年8月 »