« 若くして亡くなった天才詩人・立原道造 | トップページ | 東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』 »

2009年7月 5日 (日)

柄谷行人『隠喩と建築』

最も大江健三郎の存在価値を認めていながら

その欠点を指摘することにより

その評価を低くすることに貢献したのは

柄谷行人であるだろう。

このことは理解できる面もあるとはいえ

あまりに不当な現象であったと思う。

柄谷行人にしてみれば大江健三郎ほどの能力のある者が

どうして奇妙な評論活動を展開するのか

理解できなかったのだろう。

そのため他の作家よりは圧倒的にすばらしい作家であった

大江健三郎を批判し続け、他の批評家にも

大江を批判する根拠を与えることとなった。

けれど柄谷本人も後に気づくように

大江ほどの作家は日本にはあまりいないことも事実で

大江の欠点を差し引いたとしても

その力量は他の作家を圧倒していたのである。

それは柄谷が一時期評価していた

内向の世代と呼ばれる一群の作家たちが

その後まったく大江に及ばないどころか

文学的にも高い評価をするのが

はばかれるようになっていくにしたがって

はっきりしていったと言えるだろう。

そんな柄谷だが、その独自の評論活動においては

やはり他を引き離しており、吉本隆明と比較すれば

独自性という点では見劣りするものの

是非読んでおきたい作品群を形成しているといえるだろう。

そしてこの『隠喩と建築』は柄谷作品の本格的な深まりを

告げる格好の入門書となっていると思う。

|

« 若くして亡くなった天才詩人・立原道造 | トップページ | 東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』 »

思想・哲学」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 柄谷行人『隠喩と建築』:

« 若くして亡くなった天才詩人・立原道造 | トップページ | 東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』 »