柄谷行人『隠喩と建築』
最も大江健三郎の存在価値を認めていながら
その欠点を指摘することにより
その評価を低くすることに貢献したのは
柄谷行人であるだろう。
このことは理解できる面もあるとはいえ
あまりに不当な現象であったと思う。
柄谷行人にしてみれば大江健三郎ほどの能力のある者が
どうして奇妙な評論活動を展開するのか
理解できなかったのだろう。
そのため他の作家よりは圧倒的にすばらしい作家であった
大江健三郎を批判し続け、他の批評家にも
大江を批判する根拠を与えることとなった。
けれど柄谷本人も後に気づくように
大江ほどの作家は日本にはあまりいないことも事実で
大江の欠点を差し引いたとしても
その力量は他の作家を圧倒していたのである。
それは柄谷が一時期評価していた
内向の世代と呼ばれる一群の作家たちが
その後まったく大江に及ばないどころか
文学的にも高い評価をするのが
はばかれるようになっていくにしたがって
はっきりしていったと言えるだろう。
そんな柄谷だが、その独自の評論活動においては
やはり他を引き離しており、吉本隆明と比較すれば
独自性という点では見劣りするものの
是非読んでおきたい作品群を形成しているといえるだろう。
そしてこの『隠喩と建築』は柄谷作品の本格的な深まりを
告げる格好の入門書となっていると思う。
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