藤巻健史さんの『マネーはこう動く』を読んでみた
藤巻さんの『マネーはこう動く 知識ゼロでわかる実践・経済学』を読んでみた
(5つが最高)
とにかくわかりやすいということは評価できる。
また、理論的にありうるシナリオであったことも
高く評価されるべきだと思う。
しかし、残念ながら2007年の初版発行当時から
2010年の現在まで藤巻さんのシナリオどおりには
なっていないだけでなく、むしろ逆に動いている。
この本をわざわざ今年の9月に文庫で出すことの
意味が私にはまったく分からない。
あえて探すとすれば、経済に関する知識と、
為替に関する理解ということから、
他に良いテキストがなかったためだろうか。
ただ、間違ったシナリオが分かりやすくても
何も意味がないと思うかもしれないが
あえて弁護するなら、日本政府が現状に危機感を
感じて行動するならこのように動くであろうという
シナリオが、日本政府にきちんとものを考える人が
いなかったので、そのようにはならなかったという
ことであって、シナリオとしてはありえたと思う。
では、そのシナリオとはどのようなものであったのか。
日本の財政は破綻寸前であり、金融政策としては
次の3つしかないとしていた。
①徳政令 (国債の返金をやめてしまう)
②リスケ (国債の返金を先延ばしにしてしまう)
③インフレ政策 (国債の価値を下げてしまう)
ここで①②は影響が大きすぎるので、
現実的には③しか選択肢はない。
藤巻さんとしてはインフレを予想するので
個人としてやれることは、次の3つであるとする。
①固定金利で借金をして不動産を買う
②アメリカの株を買う(ダウ採用銘柄を買う)
③日本の国債を売る
けれど、現実には藤巻さんがインフレにするための
為替政策としての円安誘導は行われなかった
だけではなく、かなりの円高になっている。
これは国民レベルで見れば国債残高の危機感よりも
デフレによる物価の下落が望ましいこととされ、
円高も還元セールや海外旅行で得をするくらいにしか
意識されていないということである。
デフレになれば物が売れずに企業収益は悪化し
雇用不安が生じることは明らかだが
不況の原因をサブプライム問題のみにあるかのように
マスコミがあおりすぎたので、デフレの問題が
見過ごされてしまう結果になっている。
このことを藤巻さんが予測できなかったからと言って
ことさらに問題にしようとは思わないが、
「アメリカ経済の実態」を見誤ったのは
経済の解説本としては致命的である。
確かに藤巻さんの言うように、日本には
バブル崩壊以降、悲観論が台頭し
アメリカ経済についても弱く考えがちだが、
多くの人が警戒警報を出しているのに
上昇しているマーケットは強いとの経験から
アメリカの不動産は高値安定か、
再度上昇するとの結論はあまりにも安易だった。
それでもこの本を読む価値はどこにあるかというと
膨れ上がる国債残高を今後どのように処理するのか、
緩やかなインフレにするとして、そのための取りうる
政策にはどのようなものがあるのか、
ということは、読んでおいて損はないと思う。
ただし、その知識だけで投資行動をとることは
やめておいたほうが良いと思う。
なぜなら日本政府が必ず正しい政策を取るとは
考えられないし、いつそのシナリオになるか
誰にも予測できないからだ。
日本にとって最良のシナリオを考えることと
本当に今後の日本が経験するシナリオを
予測することはまったくの別物である。
また、バブルはアメリカの国力をもってしても
はじけることを止められないのも事実である。
【目次】(「BOOK」データベースより)
1章 マネーはもうジャブジャブだ
2章 マネーはどこに消えたのか?
3章 経済政策には何があるか?
4章 日本の財政はいかに悪いか
5章 長期金利は今後上がるか下がるか?
6章 為替はどうなるか?
7章 不動産マーケット
8章 株のマーケット
9章 いま世界経済はどうなっているのか?
10章 今後の日本はどうなるか?
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