マルコム・グラッドウェルさんの『採用は2秒で決まる!』を読んでみた
グラッドウェルさんの『マルコム・グラッドウェル
THE NEW YORKER傑作選(3)採用は2秒で決まる!』を読んでみた
(5つが最高)
さすがマルコム・グラッドウェルだと感心させられること
が次々に出て来るのは傑作選(1)(2)と同様だが
訳者の勝間和代さんがあえて第17章の「 “才能”を
めぐる神話─優秀な人間が過大評価されるワケ」を
この選集に採用したことが、何より興味深かった。
この第17章では、アメリカの破綻したエンロン社の
コンサルタント会社がマッキンゼーであり、監査法人が
アーサー・アンダーセンであることが紹介されている。
そしてこのマッキンゼーとアーサー・アンダーセンこそ
勝間さんのキャリアを形成した企業なのである。
この第17章は、その後に解散の道をたどった
アーサー・アンダーセンについては触れられていないが
エンロン社がマッキンゼーのアドバイスに従い、
ずば抜けて優秀で高学歴の精鋭を高額の報酬で雇い、
「能力至上主義」というアメリカの経営管理における
新たな正統派的信念に基いていたにもかかわらず、
「能力至上主義」に偏りすぎたため組織を維持できず
あまりにもあっけなく破綻したことを紹介している。
また、この第17章の中には名前こそ取上げられて
いないが、捜査当局が関心を寄せていると書かれて
いる投資銀行の1つが、やはり勝間さんのいたことがある
JPモルガンのことなのである。
別に勝間さんがエンロン事件に関与していたのではないし
何か社内で不正をしていたわけではもちろんない。
しかし、このような外資系企業を渡り歩いてきたことを
自身の経歴として自慢するように、いくつもの著書に
名前を出してきた勝間さんが、あえて選集にこの章を
採用するあたり、さすがとしか言いようがない。
この本の中に記載がないので、少し付け加えておくなら
米国で過去最大級の企業倒産が相次いだ時期に
エネルギーのエンロン、小売りのKマート、通信の
グローバル・クロッシングといった破綻企業の主要な
債権者リストにことごとくJPモルガンは含まれている。
例えば、エンロン関連だけで11億3000万ドルの
不良債権を発生させてしまっている。
これら勝間さんがそのスキルを身につけてきた
外資系企業には「優秀な人間が過大評価される」
という共通点があるように思える。
そしてそのことを勝間さんは自覚している。
そして、なかでもエンロン事件のときでさえ傷を負わな
かったマッキンゼーに対する信頼は大きいように思う。
けれども、この第17章に出てくるマッキンゼーは
最悪のコンサルタント会社である。
エンロンでは優秀な人材をスター人材とし、その人が
プロジェクトを立ち上げようとするとき、社内は公開市場
システムにより引き抜きが奨励されていて、マネジャー
ですら、それを阻むことができない仕組みになっている。
この点に関して、作者の次の言葉はとても重たい。
『全社的なビジネスの安定性が重要ではないのか、
スター人材の自己実現がひょっとしたら、会社全体の
最善の利益と矛盾するのではないのか、と懸念した
者は誰ひとりいなかったようなのだ。
それこそが、本来、経営コンサルタントが懸念すべき
問題ではないだろうか。だがエンロン社のコンサル
タントはマッキンゼー社であり、マッキンゼー社は
多くのクライアント企業と同じくらい“才能という名の
神話”に取り憑かれていた』
これ以外の章も、いつものことながら面白かった。
第14章の「大器晩成」は、早熟の天才だった
パブロ・ピカソと、人生の後半期に才能が開花した
セザンヌの両者の違いと、「大器晩成」であるための
とても興味深い条件について。
また、第16章の「危険なプロファイリング」は、
ドラマなどですっかりお馴染みになった捜査手法の
「プロファイリング」が、実は占星術師や霊能者と同じ
コールド・リーディングという“トリック”を使っている
だけだったのではないかという驚くべき指摘。
さらに第18章の「採用は2秒で決まる!」は、
就職面接に圧倒的に強い学生の事例から、
その秘訣を探るものだが、実際に真似られるもの
なのかどうなのかは別として、最後に語られる
テクニックは、「はっきり話して、にっこりと笑う」。
いずれの章も充分に楽しめる。
【目次】(「BOOK」データベースより)
第14章 大器晩成─天才=早咲きの花か?/第15章 成功しそうな人─「誰がこの仕事に向いているのか」わからないときの雇い方/第16章 危険なプロファイリング─犯罪者分析は容易につくられる/第17章 “才能”をめぐる神話─優秀な人間が過大評価されるワケ/第18章 採用は2秒で決まる!─面接で本当にわかること/第19章 トラブルメーカー─アメリカン・ピットブル・テリアが犯罪について教えてくれたこと
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