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2011年1月21日 (金)

ケンジ・ステファン・スズキさんの『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』を読んでみた

ケンジ・ステファン・スズキさんの
『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、とにかくとても分かりやすいということが

特徴の本です。

いまの日本が良好な状態でないということは誰もが

感じていることだと思うが、ではいったいこの国の形を

どのようにすれば良いのかというと、なかなか答えを

持ち合わせている人がいないのが現状である。

そういった閉塞間の中で、ひとつの方向性として

考えられたのが、構造改革による小さな政府である。

しかし、この考え方は竹中平蔵さんの言うとおり

構造改革を徹底して行わなければ、一部の人に

既得権益が残り、格差社会を助長している政策と

受けとられかねない懸念があるとともに、

小さな政府ではセイフティーネットが不十分になって

しまうという社会的不安をぬぐいきれない。

そこで次に考えられるのが、北欧諸国が実施している

「高福祉・高負担」という国家モデルの選択である。

これは高負担に対する批判と平等な福祉の実現に

不安があることから、日本ではあまり人気がない。

けれど、そこに住んでいる人々は本当はどう感じて

いるのだろうか、という疑問に答えてくれるのが

今回のこの本である。

作者は、1944年に日本で生まれ、1967年に

青山学院大学を中退してデンマークに渡り、

79年デンマーク国籍取得している。

デンマーク人女性と結婚して3女を育て、68年には

コペンハーゲン大学入学している。

その後は、在デンマーク日本大使館勤務等を経て、

デンマークが世界的にリードする風力発電などを

日本に普及させる事業を手がけている。

今でも日本につながりを持った人の目線で

実際のデンマークの様子を具体的に伝えてくれている。

一般的には、高福祉国家というと医療費や教育費が

無料だが、そのかわり税金が高い国というイメージ

しか持ち合わせていないのではないかと思う。

けれども、それを実現するには国民が納得できる

考え方をしっかりと共有していることが大切で、

たとえば「受験がないこと」だけをとっても、

ただそれだけのことではなく、この本を読んで私も

初めて知ったのだが、デンマークでは普通のサラリーマン

になるにも資格が要るらしく、その仕事を極めて

さらに上を目指すときや、転職の際などに大学で再度

学んで資格を取ることが普通に行われているようだ。

そういったことも含めて、受験がなく、教育費も無料

という社会が形作られているのである。

また、「国民一人一人に主治医がいること」や

「女性の就業率がEUで最も高いこと」なども、

その裏には歯科治療は個人負担であったり

ちょっとした風邪では薬も出してくれないなどの

病気の「仕分け」が行き届いていることや、

女性を活用しなければ国家が成り立たないといった

事情が当然あってのことなのである。

こうした様々な実態を知った上で初めて、

数々の調査で「世界一幸せ」とされる「デンマークモデル」

と呼ばれる社会制度の良し悪しを議論できる。

この本は、そのことを可能にしてくれる

具体的な判断材料が豊富な良書となっている。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 デンマークの高福祉社会─なぜ、国民が「幸せ」を感じるのか(医療制度/出産・育児制度/教育制度と就職システム/年金制度/高齢者福祉制度/生活支援制度)/第2章 デンマークの高負担の実情─国民総背番号制と財源(個人登録番号制度/個人登録番号制度と納税制度 ほか)/第3章 デンマークの問題点と共生社会─離婚・自殺・小家族・給与格差…(社会福祉と離婚の増加/高福祉でもなくならない自殺 ほか)/第4章 デンマーク史概略─高福祉国が生まれた歴史的背景(平坦な国土/14‐15世紀の隆盛 ほか)

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