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2011年4月15日 (金)

鈴木亘さんの『財政危機と社会保障』を読んでみた

鈴木亘さんの『財政危機と社会保障』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、深刻な問題であり続ける年金・医療・

介護・育児といった社会保障の入門書である。

内容は、元日銀マンであり、現在は学習院大学

の経済学部教授として社会保障論、医療経済学、

福祉経済学を専門としている鈴木さんが国家財政と

社会保障の問題を詳しく論じている。

特に印象的なところは、単純で分かりやすい

「菅流経済学」がまったくの間違いであるという指摘。

「強い経済、強い財政、強い社会保障」のスローガン

のもとに、増税を行い、社会保障の拡充を図って

雇用を創出するという考えはどこかがおかしい。

また、社会保障費を拡充することにより、高齢者

などが貯蓄を取り崩すということもないと指摘。

鈴木さんの論点は明快で、本来成長戦略とは

「潜在成長率」を高める政策を指すが、

「護送船団方式」の産業に投資をしても将来の

潜在成長力を押し上げる「社会資本整備」という

側面がないため、浪費行為に過ぎないという。

しかも、浪費をしてみたところで貯蓄の取り崩しは

次の3つの理由により、ほとんど起きないという。

①日本の高齢者は、非常に安全志向が強いため
 多少の社会保障の充実くらいでは簡単に貯蓄行動を
 変えることはないため
②社会保障費拡大で安心する高齢者は、そもそも
 あまり貯蓄をもっていないため
③社会保障費拡大に伴う増税や国債増発が、
 将来の不安を増加させる可能性が高いため

さらに、「産業連関表」による医療・福祉産業の

波及効果についても、雇用創出数が多いということは、

①この分野で非正規労働者や短時間労働者が多く、

②彼らの賃金が低いことを意味しているに過ぎない

とバッサリと切って捨てている。

鈴木さんの提言は、結局は「強い社会保障」ではなく、

「身の丈に合った社会保障」を目指せというものだ。

人間誰しも社会保障の充実には異を唱えないだろう。

しかも既得権益者は利益が減ることに抵抗するから

社会保障費の抑制には強力な政治力が欠かせない。

「強い社会保障」ではなく、社会保障改革を目指し

国民に説明責任を果たしてくれる政治家が望まれる。

高齢者の中にも、自分たちが年金を貰い過ぎている

ことが、若者の負担になっていることを感じている人は

少なからずいるのである。

一生懸命働いた若者の手取りの収入が、年金生活者の

それよりも少ないことが何を意味するかということ。

高齢者が頑張ってくれたからこそ今この国があることは

充分承知しているが、それでもなお考えるときなのだ。

少なくとも鈴木さんも指摘しているとおり、負担能力の

高い人にまで公費の恩恵を与えなくても良いと思う。

たしかに、負担能力の高い人は他の人より頑張った

ということが事実であるにしてもである。

新書版であるが、内容は充実していて良書である。

社会保障を考える手がかりが満載の一冊である。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 「日本の借金」はどのくらい危機的なのか?/第2章 「強い社会保障」は実現可能か?/第3章 世界最速で進む少子高齢化、人口減少のインパクト/第4章 年金改革は、第二の普天間基地問題になるか/第5章 医療保険財政の危機と医師不足問題/第6章 介護保険財政の危機と待機老人問題/第7章 待機児童問題が解決しない本当の理由/第8章 「強い社会保障」ではなく「身の丈に合った社会保障」へ

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