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2011年4月22日 (金)

小島寛之さんの『容疑者ケインズ』を読んでみた

小島さんの『容疑者ケインズ 不況、バブル、格差。
すべてはこの男のアタマの中にある。』を読んでみた

 (5つが最高)

私はこの本を読むまで、小島さんのことを数学者だと

ばかり思っていたが、実は経済学博士であり、

年季の入った経済学者だったのである。

若い頃、小島さんの数学に関するエッセイを

熱心に読んでいた者として、そんなことも知らなかった

なんて、誠にお恥ずかしい話だ。

そして、今回のケインズに関する著書は小島さんの

思い入れたっぷりのものようである。

タイトルからは、ケインズ論のような印象を受けるが、

この本の成立過程が別の主題に関するブログから

ケインズに関する箇所を抜き出してきたものであるため

ケインズについてというよりは、ケインズに起源を持つ

最近の研究に関する小島さんのまとめ的な本である。

そのため、この本のみでケインズの経済理論を理解

することはまったくできない。

ケインズの理論を知らなくても読めるようにはなって

いるが、できれば入門書などを読んでからの方が

より楽しめるような気がする。

私はケインズの理論を知らないままにこの本を読んだ

ので、たとえば次のような指摘はとても参考になった。

『ケインズは、実は、「価格」のことをロジックの外に
置いてしまっているのだ。そして、実際の供給量が
有効需要を上回った場合、価格による調整ではなく、
「生産調整」が行われるのが一般的だと考えている。
つまり、現実に売れ残りが生じた場合には、価格を
下げたりせず、在庫が消滅するまで生産を抑制し、
長引くなら労働者をレイオフしたりパートタイマーを
解雇したりする、と考えるのである。逆にそう考え
なければ「不完全均衡」がなぜ起こるのか、説明が
つかない。』

『ケインズの見方が正しいなら、不安定に上下する
のは価格や賃金のほうではなく、むしろ、生産量や
雇用量のほうになるはずだ。私たちの生活実感でも、
一部の生鮮食品などを除けば、商品価格や家賃が
場当たり的に乱高下する、などということはほとんど
なく、それに比べて、景気と不景気はあんがい細かい
時間間隔で交互するようにも感じられる。』

新古典派経済学は、価格変化による速やかな調整

により、フルに財を生産しても余剰は生じないという

立場なのに対し、ケインズは、価格は硬直的であり

財の余剰は次期の生産の手控えによるしかなく、

労働力や設備は使用されなくなるという立場である。

私は価格調整と雇用調整の両方が現実には起きる

ように思うが、それは当然これらの理論を知ったから

そう思うだけであって、単なる後知恵に過ぎない。

また、ケインズは「有効需要の原理」を論証するために

次の3つの重要な仮定を置いているという指摘も

とても参考になった。

①国全体で集計した企業部門の設備投資は、
 利子率(金利)だけで決定される
②家計部門における消費・貯蓄の関係は、
 国全体で集計するなら、はっきりと決まってしまう
③投資水準を決定する利子率は、貨幣の総量に
 よって決定される

ただ、あまりに簡略化された説明のため疑問の残る

点もあったことは事実である。

たとえば、公共投資による乗数効果が誤謬である

という説明の中で、増税した分を政府が直接使用

すると、企業部門とお金の流れが逆になると

書かれているが、政府が企業に仕事を発注すると

本当に乗数効果がないと言えるのか分からない。

また、公共投資の実質的効果は政府が投じた金額

ではなく、作られた公共物の価値に依存するという

のも、結論だけ書かれており、納得するに至らない。

これが本当ならば、価値あるものを作るなら公共

投資は有効ということになるが、現状では増税する

にしても国債を発行するにしても、心理的な不安から

景気は上向かないと思うのだが、どうだろうか。

良書の定義を「良質の知識を提供してくれる」ものと

「良質の思考の機会を提供してくれる」ものとに

分割するなら、この本は明らかに後者に属する。

小島さんらしい数学を取り入れた経済の本を

次には読んでみたいと思った。

【目次】(「BOOK」データベースより)
1 公共事業はなぜ効かないのか―「一般理論」の先見と誤謬(そもそも不況とはどういうことか/どうしてモノや人が余るのか/ケインズは貨幣に注目していた ほか)/2 バブルの何がまずいのか―不確実性と均衡(確率論が通じないサブプライムの泥沼/アブナイとワカラナイは違う―「ナイトの不確実性理論」/人は最も悪い可能性を気にする―「エルスバーグのパラドックス」 ほか)/3 人はどのように「誘惑」されるのか―選好と意思決定のメカニズム(経済活動は「推論」と「決断」の繰り返し/「行動の好み」を再現する選好理論/「誘惑」のメカニズムが解明された ほか)

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