ピーター・F・ドラッカーさんの『ネクスト・ソサエティ』を読んでみた
ドラッカーさんの『ネクスト・ソサエティ』を読んでみた
(5つが最高)
この本は、世界の流れの中で読むと「歴史が見たこと
のない未来」を描き出しているのかもしれないが、
日本に関する記述に限って言えば、これまでの歴史を
再度繰り返すだけの未来を描いているように思える。
まず、「ネクスト・ソサエティ」では、知識が資源となり、
知識労働者が中核の働き手となる。
そして、『知識労働者にとっても、報酬は大事である。
報酬の不満は意欲をそぐ。しかし意欲の源泉は、
金以外のところにある。知識労働者のマネジメントは、
彼らが組織を必要とする以上に、組織が彼らを必要
とするとの前提のもとに行わなければならない』と
いうことらしい。
また、『今日マネジメントは、IT革命によってかえって
必要な情報をもてなくなった。手にするデータは増え
たが、ほとんどが組織の内部についてのものである』
ということは考えておかなければならない。
しかし、『IT革命におけるeコマースの位置は、産業
革命における鉄道と同じである』と言い、『鉄道が
生んだ心理的な地理によって人は距離を征服し、
eコマースが生んだ心理的な地理によって人は
距離をなくす。もはや世界には一つの経済、一つの
市場しかない』と言えるようになった。
さらに、「ネクスト・ソサエティ」の特質は、①知識は
資金よりも容易に移動するがゆえに、いかなる境界も
ない社会、②万人に教育の機会が与えられるがゆえに、
上方への移動が自由な社会、③万人が生産手段として
知識を手に入れ、しかも万人が勝てるわけではない
がゆえに、成功と失敗の並存する社会である。
では、そのような社会にあって、トップマネジメントの
あり方についてのポイントとは、次の5つがある。
①コーポレート・ガバナンスが変容する
②外の世界で起こることを理解する必要がある
③いつ命令し、いつパートナーとなるかを
知らなければならない
④知識労働の生産性の向上に真剣に取り組ま
なければならない
⑤みながともに生産的に働けるようにすることを
考えなければならない
ここまでは、とても分かりやすくグローバル化と
変化の激しい時代が描かれているが、話が日本に
及ぶと突然、劇的な改革を望む機運に関しては
注意を要すると、おとなしくなってしまう。
これは日本が変化に追いつけないという意味なのか
日本は変われないだろうという皮肉なのか分からない。
もっとも印象的なのは、日本についての5つの謬説を
指摘した後で、正しい仮説として挙げられている5つに
ついてである。
①官僚の優位性はほとんどあらゆる先進国で見られる
②日本の官僚は長年の不祥事と無能の暴露にも
耐久力を示して、権力を維持してきた
③社会の維持にはエリートの指導力が必要であり、
日本には、官僚の後を継ぐものは現れそうにない
④日本では経験的には、先送り戦略には一概に
不合理とはいえないものがある
⑤日本の政策形成者にとっては、大事なのは経済よりも
社会であって、先送りこそ合理的な戦略である
ドラッカーは丁寧にも、この日本に関する章を次のような
言葉で締めくくっている。
『もちろん、官僚の擁護などは異説である。しかし異説と
いうものは、通説よりも真実に近いことが少なくないので
ある』
今現在、政治主導を掲げる政党によって、日本は
メチャクチャなことになっているが、このことを親日家でも
あったドラッカーは、あの世でどのように感じているの
だろうか。
もう、新しいドラッカーの意見を読めないのが、残念に
思える1冊である。
【目次】(「BOOK」データベースより)
第1部 迫り来るネクスト・ソサエティ(ネクスト・ソサエティの姿/社会を変える少子高齢化 ほか)/第2部 IT社会のゆくえ(IT革命の先に何があるか?/爆発するインターネットの世界 ほか)/第3部 ビジネス・チャンス(起業家とイノベーション/人こそビジネスの源泉 ほか)/第4部 社会か、経済か(社会の一体性をいかにして回復するか?/対峙するグローバル経済と国家 ほか)
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