マイケル・サンデルさんの『これからの「正義」の話をしよう』を読んでみた
マイケル・サンデルさんの『これからの「正義」の話をしよう
いまを生き延びるための哲学』を読んでみた
(5つが最高)
この本は、ハーバード大学史上空前の履修者数を
記録しつづける「ハーバード白熱教室」の超人気講義
「Justice(正義)」をもとにした全米ベストセラーの
邦訳本である。
もともとが哲学好きであることを除いても、やはり
この本の質の高さは想像以上であった。
たとえば、第4章の終わりの次のような一節は
法律を飯の種にしている私のようなものにとっては
資本主義の中で常に考えさせられる問題である。
『子供を産むことと戦争で戦うことほど異質な行為は
ないだろう。しかし、妊娠しているインドの代理母と、
アンドリュー・カーネギーの身代わりとして南北戦争
を戦った兵士には共通点がある。彼らの置かれた
状況の是非を考えていくと、二つの問題に向き合わ
ざるをえなくなる。それは、正義をめぐって対立する
さまざまな考え方の分岐点となるものだ。ひとつは、
自由市場でわれわれが下す選択はどこまで自由
なのかという問題。もう一つは、市場では評価され
なくても、金では買えない美徳やより高級なものは
存在するのかという問題である』
資本主義社会にあっては、契約自由の原則は
当事者が自由な意思による判断に基づく限り
これを尊重し、経済の発展の基礎とされている。
しかし、公序良俗に反する契約が無効である等の
例外があることはもちろんだが、そもそも契約の
当事者が平等な立場で公正な判断を下せるだけの
情報を互いに持っているかということを問題にすると
途端にほとんどの契約の成立が怪しくなってくる。
カネで雇われる身代わり兵士も代理母も本当に
自由な選択をしたと言えるのだろうか。
本当に平等の立場であったのだろうか。
このことは、第6章でジョン・ロールズの『正義論』に
よって、一つの方向性が示される。
『選択の自由』を書いた経済学者のフリードマンは
不公正さを是正するのではなく、この差を受け入れ
そこから利益を得るべきだと主張したのに対し、
ジョン・ロールズは、次のように反論している。
『自然による分配は公正でも不公正でもない。
人が社会の特定の場所に生まれることも同じだ。
どちらも自然の事実にすぎない。公正か公正で
ないかは、組織がこうした事実をどのように扱う
かによって決まる』
この事実を適切に扱う組織はアメリカをはじめ、
まだこの地球上に存在していないかもしれない。
けれど、私たちはいつまでも不公正さから利益を
得るだけでよいものだろうか。
それが「正義」であると言えるだろうか。
私たちは、どうすれば自分が強い立場で契約を
結べるかということばかりに注力しすぎなのでは
ないだろうか。
考えさせる本を良書と呼ぶのなら、この本は
間違いなく良書である。
【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 正しいことをする/第2章 最大幸福原理-功利主義/第3章 私は私のものか?-リバタリアニズム(自由至上主義)/第4章 雇われ助っ人-市場と倫理/第5章 重要なのは動機-イマヌエル・カント/第6章 平等をめぐる議論-ジョン・ロールズ/第7章 アフォーマティブ・アクションをめぐる論争/第8章 誰が何に値するか?-アリストテレス/第9章 たがいに負うものは何か?-忠誠のジレンマ/第10章 正義と共通善
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