田中秀臣さんの『雇用大崩壊』を読んでみた
田中さんの『雇用大崩壊 失業率10%時代の到来』を読んでみた
(5つが最高)
この本は、「リフレ派」経済学の代表的な論客である
田中さんが雇用の面から日本経済を分析している。
ただ、この本の面白さは雇用の分析には限られない。
たとえば、次のような解説は、対立軸を明確にして
いてとても分かりやすい。
田中さんと同様に「リフレ派」でもある東洋大学の
高橋洋一教授によると、日本には「上げ潮派」は
ご自身を含んで、中川秀直衆議院議員と竹中平蔵
慶応大学教授の3人しかいないということらしい。
そして3者に共通しているのが、「小さな政府」の
実現ということで、公務員制度改革、財政再建、
地方分権などがそのための手段ということになる。
日本風にいえば構造改革、要するにサプライ
サイド(供給側)の改革ということになる。
これに対して、田中さんは「リフレ派」ではあるが
「大きな政府」でいいと主張している。
しかし、それは財務省が常に言い続けている
財政再建のための消費税の増税によってでは
ないというところが重要なところである。
『消費税の負担は高齢者の方が現役世代に
比べてかなり少なく、それと同時に消費税は、
年金の国庫負担分に充当されるということで
やはり高齢者にとっての利益になるという二重
のメリットを高齢者に対して生み出すのです』
そして、高齢者の投票率が高いため、選挙対策
としても、政治家は財務省の提案を受け入れ
やすいということらしい。
『これが世界でも珍しい不況の中での増税議論
の実体です』
最近でこそ、消費税の増税もやむなしという声が
聞かれるようになったが、ここら辺の記述は
少し疑問のあるところである。
けれども、田中さんの主張は増税反対なので、
細かいことにこだわらないが、結局のところ
田中さんは日銀による金融政策により
有効需要を創出すべきだという主張である。
具体的には、インフレターゲット政策である。
『本書では一貫して、現役で働いている人たちの
環境をよくすることが政府の果たす務めであること
を強調してきました。現役世代、特に若い世代の
経済的貧困を解消することが、彼ら彼女らだけでは
なく、その後の世代にも、そして現在の高齢者に
とっても利益になることなのです。その意味で、
不況を克服する積極的な財政・金融政策を行う
政府の役割は「大きい」のです。これが本当の意味
での「大きな政府」の重要性だと私は思っています』
これほどデフレが長く続いている現状ではインフレ
ターゲット政策は、試みる価値があると思うが、
「大きな政府」がいいのか、「小さな政府」がいい
のかは、難しい問題だと思う。
少子高齢化によって、社会保障費をどのように
まかなうかという問題からすれば「大きな政府」
ということは避けられそうもないが、公務員制度
改革が必要であるということも間違いないこと
なので「小さな政府」も捨てがたい。
いろいろと考えてみるには面白い本である。
【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 「二段階不況」の日本/第2章 経済の現状に対する、五つの誤解を解く/第3章 漂流する若者時代/第4章 正社員の憂鬱/第5章 今こそ金融・財政政策の総動員を/第6章 雇用回復への処方箋
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