東野圭吾さんの『パラドックス13』を読んでみた
東野さんの『パラドックス13』を読んでみた
(5つが最高)
東野さんの作品には、大きく分けて2種類の作品がある。
1つは当然のことながら、推理小説に分類される作品で
あり、もう1つが科学に題材をとった作品である。
もちろんこれ以外の作品もあるし、両方の要素を上手く
取り入れた作品もあるが、私の中ではこの2つの分類が
とても重宝している。
では、今回読んだこの本は、どちらに分類できるかというと
科学に題材をとった作品のほうである。
作者の東野さん自身が、「世界が変われば善悪も変わる。
人殺しが善になることもある。これはそういうお話です」
と言っているとおり、そうしたパラドックスに満ちている。
ラストがどのようになるのかは読んでいただくとして
話としては、13時13分に突然、想像を絶する過酷な
世界が目の前に出現する。
陥没する道路や炎を上げる車、崩れ落ちるビルディング
など、破壊されていく東京に残されたのはわずかに13人
という、奇妙なサバイバルであり冒険譚のような展開。
しかし、なぜ彼らだけが地球上に残されたのだろうか。
彼らを襲った“P-13 現象”とはいったい何なのか。
生き延びていくために、必死になる中で、安楽死や
高齢化社会、都心の災害対策、性の問題など
人間が普段生きていくうえで文明に寄りかかって
考えていることが、実はあまりにも希薄な根拠しか
持っていないのではないかということを問いかけてくる。
リーダー格の男がメンバーのレイプ事件をきっかけに
「人類」の存続のために個人の想いを捨てさせようと
働きかけるが、女性たちは「人間」の尊厳を主張する。
この展開は、ある意味で東野さんらしい部分ではある。
けれど、このリーダー格の男に「答え」を求めて
読んできた読者には、違和感のある展開だと思う。
ましてや、最後の部分の生きる人間と死ぬ人間の
分け方は、説得的ではない。
後半部分で示されるリーダー格の行動指針が
「天は自ら助くる者を助く」というのも、SF的ではない。
そうなのだ、この本は、突然起きた“P-13 現象”という
世界の数学的矛盾(パラドックス)を読み解くSF物語
では、まったくないのである。
張りめぐらされた壮大なトリックなどもなく、
冒頭で私が示した「科学」的事象も実は存在しない。
この本は、どこまで行っても、人間ドラマなのだ。
ただ、推理小説ではないので、科学に題材をとった
作品のほうに分類するだけで、結局のところ
東野さんの作品の全てがそうであるように
この作品も人間が描かれている上質の作品なのだ。
SFや謎解きでないというだけで評価を下げるのは
この本の評価の仕方としては適切ではないだろう。
とにかく読み始めたら止められなくなる作品である
ということだけは、私の経験として書いておきたい。
推理小説は受け付けないという人にもお奨めです。
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