2012年2月10日 (金)

白田秀彰さんの『インターネットの法と慣習』を読んでみた

白田さんの『インターネットの法と慣習
かなり奇妙な法学入門』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、インターネット時代の法律についての入門書

であるが、特に個別の法律について論じたものではない。

サブタイトルに「かなり奇妙な法学入門」とある割には

第1章では、まず法そのもに対する考察や、大陸法と

英米法の考え方の違いといったオーソドックスな始まり

である。

第2章では、ネット社会においては、一般社会では認め

られていない自力救済が一部で行われていることや、

「複製=善」の「慣習」がもともとあり、これを事物の

本性と人間の合理性から発する行動であるとして、

教育だけで「著作権違反(複製)=悪」という概念を

慣習化していくことは難しいとしている。

第3章では、思考実験として著作権を法律で保護など

しなくてもいいのではないかということを考えることに

よって、逆に著作権の守るべき本質を考えさせてくれる。

ただ、インターネット社会で問題となる法律について

これから勉強しようという人には、期待はずれに

終わるかもしれない。

この本は、変化の激しいインターネット社会において、

後追いになってしまっている法をどのように捉えれば

いいのかを解説するとともに、インターネットの世界に

現行の法律を適用することの限界も示している。

そこで最後に奇妙な結論として、政治家はネットの

世界を理解しないので、ネット世界に適した法整備を

行わない、あるいはその必要性さえ感じていない。

であれば、このような状況を打破するためには、

法整備よりもまずネット上で好ましい慣習を作り出し、

最終的にはネットの世界の意見を代表する議員を

議会に送り込んだらどうだろうかというものである。

このことは、慣習から法にいたる道筋と、法が常に

政治的であることを知っているものには馴染み

やすいかもしれないが、今ある法を学びたかった人

には、なんとも唐突な感じなのではないだろうか。

1冊目にしてはハードルが高いかもしれないが、

法学そのものの入門書としては面白い。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 法の根っこを考える(そろそろ真面目に「法」について考えよう/法と法則/大陸法と英米法の考え方/イングランド法についてちょっと補足)/第2章 権利をしっかり知っておく(自力救済と紛争解決/名誉と自力救済、そして法/知的財産権制度と封建制について/権威と典礼)/第3章 これからの法と社会を模索する(政治的であることについて/メンドウな事態とポリシー・ロンダリング)

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2012年1月19日 (木)

佐藤孝幸さんの『出世するなら会社法』を読んでみた

佐藤さんの『出世するなら会社法』を読んでみた

 (5つが最高)

出世するのに会社法が必要だなんて私は思わないが

出世した人が会社法について、ちょっと学んでみようと

いうときには、このような本が興味深く読めるのかも

しれないとは思う。

また、会社を自分のものだと勘違いしている経営者や

株主のものだと主張して強引なリストラを正当化する

頭の弱い人には、本書にあるような「株主」の理解は

きわめて有用だと思う。

この本では、「株主」とは、株式会社の所有者ではなく、

「株式」の所有者であって、株主が会社に対して持って

いる権利は所有権ではなく、株主権という特別な権利

であるとしている。

そして、株主平等の原則に触れた後、示される例外は

この本らしい明快さで、特に参考になる。

『株主平等の原則の例外が許されるケース
 ・株主優待制度
 ・敵対的買収によって会社の企業価値が毀損され、
  会社の利益・株主の共同の利益が害されることに
  なるような場合に、その防止のために特定の株主を
  差別的に取り扱う場合』

また、少数株主の権利に触れた後、その保護の限界と

して示される方法は、最近多くなったMBOなどでも利用

されるようになる方法なのかもしれない。

『少数株主保護の限界
 TOBなどにより3分の2以上の株式を取得した
 多数株主による以下のケース
 ・株式交換の際、交換比率を調整することで少数
  株主には親会社株式の端数を現金で交付する
  ことで締め出す
 ・普通株式を全部取得条項付種類株式にしたうえで、
  株式の取得に際し、少数株主に対価として交付する
  株式が1株未満となるように調整することで、少数
  株主には現金を交付することで締め出す』

とにかく薄いので、会社法に興味がある人には、

どこからでも気軽に読み始められるので楽しいだろう。

ただ、細かな条文を知りたい人向けではない。

【目次】
第1章 役員になることは会社人生のゴール?
第2章 なぜ株主総会では社長が株主に叱られるのか?
第3章 一寸の虫にも五分の魂
第4章 ワンコイン起業の行く末
第5章 親はなくとも子は育つ
第6章 ブルドックソース事件の謎
第7章 新株発行と株価の怪しい関係
第8章 会社の命が尽きるとき

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2011年5月 3日 (火)

櫻井よしこさんの『憲法とはなにか』を読んでみた

櫻井さんの『憲法とはなにか』を読んでみた

 (5つが最高)

毎年5月3日の憲法記念日には、法律に携わっている者の

義務として憲法に関する本を読むようにしている。

憲法といえば、それはすなわち第九条の「戦争の放棄」の

問題とされ、「護憲」か「改憲」か、ということが話題にされる。

しかし、この本は日本国憲法が抱えている問題点が

第九条だけではなく、環境権や知る権利など国際的な

新しい権利についての考えが書かれていないことにも

現れていることを指摘している。

私は、法学部の出身でもなく、憲法に関して資格試験の

受験の際に勉強した程度だが、頑固な護憲派である。

理由は単純で、今の憲法が最高のものだとは考えて

いないが、それでも改悪されるくらいなら、平和憲法の

ままであり続けてもらいたいというものだ。

これに対し、櫻井さんはジャーナリストらしい切り口で

憲法について考えないできたことが日本をダメにして

しまったのではないかという問題意識のもと、憲法に

ついて考える際の素材を提供してくれている。

もちろん憲法の専門家ではないので、憲法学者とは

違った問題の論じ方になっている点はある。

しかし、「日常から見た憲法の問題点」は指摘されてる。

そして、何より憲法に目を向けさせようという姿勢は、

ジャーナリストとしても正しい姿勢であると感じる。

私もこの本を読んであらためて憲法について考えて

みたが、その前文も含めて、やはり世界に誇れる平和

憲法だと思う。

普段法律とは無縁だと考えている人も憲法記念日に

くらいぜひ、憲法の各条文を読んでみてはどうだろうか。

とりあえず、ここでは第九条のみ記載しておく。

 第九条 戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認

 一項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際
平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力
による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決
する手段としては、永久にこれを放棄する。

 二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他
の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを
認めない。

この世界に類を見ない国家観が反映した憲法を

誇りに思う日本人はどれくらいいてくれるだろうか。

現在の国連がどのような自衛権を認めたとしても

まったく戦力を持つことが出来ないと定めたこの憲法。

恒久平和のために設立された国連の未来の理念を

大幅に先取りしていることは間違いない。

ただ、この憲法が認めがたいという人がいることも事実。

私のような護憲派も、ただ変えなければいいと考える

だけでなく、様々な人の憲法に関する考え方を知って、

実に迂遠な方法ではあるけれど、日々の研鑽を怠らず、

この国の先行きについて真剣に考えることから始めたい。

そして、この本は素材として、憲法記念日に読むのに

ふさわしい本であると思う。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 日本国憲法とはなにか/第2章 「時代遅れ」の現行憲法/第3章 まかり通る「憲法違反」/第4章 現行憲法で国が守れるか/第5章 第一歩にすぎない新ガイドライン/第6章 “諸悪の根源”内閣法制局の憲法解釈/第7章 今こそ「十七条憲法」「明治憲法」の精神に学ぶ/終章 二十一世紀の新憲法を創出せよ

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2011年2月 8日 (火)

葉玉匡美さんの『論点解説新・会社法 千問の道標』を読んでみた

葉玉匡美/相澤哲/郡谷大輔さんの
論点解説新・会社法 千問の道標』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、2006年の本ではあるが、とてもいい本なので

ぜひ紹介したくて、再度読み直してみた。

とにかく紙が裏面が透けるくらい薄いので厚みに比べて

かなり量があるから、なかなか骨が折れる本である。

この本は、会社法制の現代化を図るために制定された

新会社法のQ&A集であるが、その数はなんと千問。

よく商法が会社法に改正されたと勘違いしている人が

いるが、商法の一部が会社法に置き換わったのであって

商法自体は、まだちゃんと残っている。

内容としては、法務省民事局の会社法の立案担当者の

手によって書かれているので、解説が論理的で矛盾が

ないのでとても分かりやすい。

編著者の一人である葉玉さんは、「会社法であそぼ。」

というブログも開設していて、いつも参考にさせて

もらっているが、こういう人がブログに無料であれだけの

内容を書き続けられたら、素人は太刀打ちできない。

今は弁護士の業務が忙しいようだが、葉玉さんのような

人がたくさん現れてくれると法律をメシの種にしている

ようなものにとっては喜ばしい限りである。

葉玉さんの他の本もいいものなので、いずれ紹介したい

と思うが、みっちり勉強するなら、この本が最適である。

実務で会社法を扱う者には本当にありがたい本である。

初心者のためにあえて補足するなら、この本を読むとき

は必ず条文に当たる必要があるので、条文が見られる

環境で、この本を読み込むことをオススメします。

私は外で歩きながら読んだりもしたが、ちょっと重い。

また、紙が薄いので風に弱いことと、条文を見たい

ときに見れないのは、かなりストレスがたまった。

やっぱり室内できちんと読むのがいちばん良い。

簡単な入門書に飽きた人は、ぜひ挑戦してみて下さい。

【目次】(「BOOK」データベースより)
株式会社の設立/株式/新株予約権/機関/計算書類等の監査と定時株主総会/剰余金の配当/会計帳簿/資本金・準備金・剰余金の減少/定款の変更/解散・清算/持株会社/社債/組織変更/事業譲渡・組織再編行為/外国会社/訴訟・非訟

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2010年11月16日 (火)

横山雅文さんの『プロ法律家のクレーマー対応術』を読んでみた

横山さんの『プロ法律家のクレーマー対応術』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、昨今の悪質化するクレーマー事情を受けて

プロの法律家である弁護士の対応術を紹介している。

「悪質クレーマー」と呼ばれる人々が急増しているなかで、

苦情・クレームとして企業や行政に対し、執拗に不当な

要求や嫌がらせを繰り返す人たちに対して、どのような

対応が必要かということが事例つきで詳しく書かれている。

横山さんは、クレーマー対応の鉄則を次のように述べる。
(1)まずお詫びから。
  「お手数(ご迷惑)をおかけしまして、申し訳ございません」
  という一言であって、責任を認める趣旨のものではない。
(2)事実の確認を先行させる。
(3)感情的な対応は厳禁。
(4)堂々巡りになったときが最初のポイント。
(5)文書による最終回答・交渉窓口を弁護士に移管する通知を送る。
(6)加害行為には素早い仮処分と刑事告訴で対応。
(7)悪質クレーム事例を記録して対応の指針とする。

私も仕事柄、難クレーム対応を行ってきたが、

人格や精神面に問題を抱えている人の割合が、

ここにきてかなり増えてきているように思う。

そうした人たちには残念ながら合理的な説得は通じない。

この本では対応をタイプ別に考えるために4つに分ける。

①性格的問題クレーマ-
②精神的問題クレーマ-
③常習的悪質クレーマ-
④反社会的悪質クレーマ-

「悪質クレーマー」に対しては、「顧客」とはっきり区別し、

「法的対応」をとることが、唯一の有効な解決策であると

いうことをこの本は教えてくれている。

もし、クレーマーに遭遇したとき、本当に悪質な

クレーマーであるかどうかの見分け方から、

弁護士との連携、従業員の保護など、対応策が詳しい。

「悪質クレーマー」対応は「毅然とした対応」で

一部の従業員が担当する時代は終わったのだろう。

わずかの弁護士費用をケチって従業員をうつ病などに

してしまう企業がいまだに多いらしいが、

これからは弁護士のビジネス領域として

数の増えた弁護士に対応してもらうことを考えよう。

新規採用の抑制やリストラにより現場の人数が

限られているような職場にあっては、なおさら

クレーマー対応などしている時間はないだろう。

ただ、対応の悪さからクレーマーを作って

しまわないように企業も研修などを充実させる

必要があることも事実である。

けれど、どうしてわれわれの社会はこんなにも

住みにくくなってしまったんだろうか。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 悪質クレーマーに潰される!
第2章 顧客?それとも悪質クレーマー?
第3章 悪質クレーマーの4タイプと対応の基本
第4章 顧客を悪質クレーマーに変えるな
第5章 悪質クレーマーの術中にはまるな
第6章 クレーマーに言質・念書を取られるな
第7章 悪質クレーマーの犯罪行為
第8章 企業不祥事が起こったときのクレーム対応
第9章 悪質クレーマー対応の7つの鉄則
第10章 今後の課題

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2010年8月22日 (日)

山田真哉さんの『山田真哉のつまみ食い新会社法』を読んでみた

山田さんの『山田真哉のつまみ食い新会社法 500円でわかるシンプル版』を読んでみた

 (5つが最高)

この本の特徴は、とにかく薄くて要点が簡潔に

まとめられていて安いので、お買い得なこと。

私は法律には仕事柄ふれる機会があるので

いまさらこの本で会社法の勉強をする必要はないが

会計士の目線での要点とは、どこかというのに興味がった。

もっと簡潔に言えば、山田さんがどのようにまとめるのかに

興味があったので古いながらも手にしたということ。

ただ、この本は会社法について何から勉強すればいいのか

わからない人向けというよりは、会社法以前の

商法時代の知識がある人が、会社法移行に際して

簡単に新法の概略を押さえるために書かれており

商法のことや有限会社法のことなんか知らないし

興味もないという、即実践で使用したい人には

あまりお勧めではないかもしれない。

とにかく薄いので、勉強の取っ掛かりとするには向いている。

まあ、無理やり会計士目線での会社法のまとめとして読むなら

次のような変更点について読むのがいいだろう。

①最低資本金制度が廃止になった。
②会計参与制度が導入された。
③合同会社という持分会社が用意された。
④決算書が変わった。
⑤種類株式について9つの事項が決められた。

特に商法時代から決算書にかかわってきた人であれば

④については承知していると思うが、

会社法になってから変わったのだということを

新たに押さえるには、ここから入っていくのが良いだろう。

なお、この本について会計士が法律の本を出すなんてと

批判的な人もいるようだが、重要なことは手にした人が

知りたい内容を正確に理解できればよいので、

他の人が簡単にまとめてくれないなら

どんな人が書いたって構わないと思うがどうであろうか。

(会社法の施行により商法が廃止されたと誤解している人が
多いが、商法の会社に関する部分が削除されただけである)

【目次】(「BOOK」データベースより)
1 新会社法って何?
2 会社を設立する
3 会社を運営する
お答えします!「新会社法」Q&A
つまみ食い「新会社法」マンガ
こんなときどうする?ケーススタディ
取締役会非設置型の会社の定款例
新会社法用語集

山田真哉のつまみ食...

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2007年5月 3日 (木)

憲法記念日に考える平和の意味

日本の今の憲法は、その前文も含めて、世界に誇れる平和憲法

だと思います。憲法記念日にぜひ、第二章の「戦争の放棄」を

読んでみて下さい(と言っても、第二章は第九条だけなんですけど)。

 第九条 戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認

 一項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

どうですかこの世界に類を見ない国家観が反映した憲法は。

現在の国連がどのような自衛権を認めたとしても

まったく戦力を持つことが出来ないと定めたこの憲法。

恒久平和のために設立された国連の未来の理念を

大幅に先取りしていることは間違いないでしょう。

ただ、この憲法が認めがたいという人がいることも事実です。

そういう人たちは戦争がどういうものかということが

まったく想像できない人たちなので、困ったものです。

しかも耐え難いのは今までこの憲法の恩恵(武力に

国家予算を使わなかったことによる経済的発展など

様々な恩恵)を受けてきた老政治家たちが改憲などと

いうことをいかにも安易に口にすることです。

そこで我々に出来る事はと言えば、実に迂遠な方法では

あるけれど、日々の研鑽を怠らず、多くのことに関心を持って、

この国の先行きについて真剣に考えることでしょうか。

それではその研鑽のためにも、憲法記念日に読み始めるのに

ふさわしい本をいくつか紹介したいと思います。

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