2015年8月25日 (火)

又吉直樹さんの『オイコノミア』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、ピースの又吉さんがNHKのEテレの

「オイコノミア」という番組で、4人の先生に

経済学について教えてもらうという体裁の本です。

2012年の4月から2013年の2月までの

放送をまとめたものなので、又吉さんが芥川賞を

受賞する前のものです。

そのことを知って読むと、なお一層面白さが増す

気がします。

テーマも「幸福」、「恋愛」、「結婚」、「少子化」など

経済学という言葉からは少し離れたものを扱い

ながら、経済学の本質を理解できる工夫がされて

いて、入門書としてお勧めです。

ただ、少し気になったことをまとめておくと、

大竹文雄さんは、結婚というテーマを経済学が

扱う際に、「経済学はお金もうけを考える学問では

なく、人間の意思決定のあり方を研究して、

世の中が良くなるような仕組みを考える学問」と

まっとうなことを語る一方で、川口大司さんは、

少子化問題に対して自己回復力が働くと考える

のが経済学の特徴であり、「少子化の原因を

分析し、社会が持つ復元力を妨げる要因を

特定する」ことが経済学の大切な役割だと、

少しトーンダウンしている感じが否めない。

社会が自己回復するものなのか、それに任せて

しまってよいものなのか、規制はないほうが

良いのか、経済学を学ぶ者にとって大きな

問題をあっさりと遣り過ごすあたりは入門書

として仕方ないところだろうか。

【目次】(「BOOK」データベースより)
幸福ー幸福を経済学でひもとくと/就活ー就職活動の仕組みはどうなっている?/スポーツースポーツは経済学で成り立つ!?/ケータイーケータイ買うならどれにする?/貯金ー貯金したって意味がない!?/恋愛ー恋愛に役立つ経済のテクニック/結婚ー結婚という行動を経済学で解剖する!/給料ーみんなの給料はどうやって決まる?/格差ー現代の格差社会はアメか?ムチか?/保険ー保険って結局トクですか?/少子化ー子どもは嫌いじゃないけれど/人生設計ー経済学で賢い人生設計をする

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2012年6月 2日 (土)

白川方明(マサアキ)さんの『現代の金融政策 理論と実際』を読んでみた

白川さんの『現代の金融政策 理論と実際』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、分かりやすい。

どうしてこんなに良い本が書ける人が、きちんとした

中央銀行の仕事をしないのか不思議で仕方がない。

たとえば、中央銀行の役割のまとめは次のとおり。

1.決済サービスを提供するという役割
2.「最後の貸し手」として流動性(資金)を供給する
 ことにより、金融システムの安定を維持する役割
3.物価の安定を実現する役割、すなわち金融政策を
 運営するという役割
4.金融機関に対する規制・監督を行う役割
5.「政府の銀行」としての役割

そして、金融政策による影響力の評価については、

次のとおり。

1.金利の変更を通じて需給ギャップの水準を左右し、
 これによって物価上昇率に影響を与える手段を
 有している。
2.金融政策の物価に対する影響力は短期的には
 限られている。
3.経済に加わる供給ショックを考えた場合、厳格な
 物価安定を短期間に目指すことは適当でないと
 判断するケースもある。また、バブル発生の危険を
 意識する場合も、短期間のうちに物価上昇率の
 引き上げを目指す政策は適当でない。
4.予想物価上昇率は重要な役割を果たす。

そうなのである、「予想物価上昇率は重要な役割を

果たす」のである。

デフレを終わらせるのは、中央銀行の務めである。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1部 金融政策の目的は何か?/第2部 誰が金融政策を決定するか?/第3部 金利の誘導とは何か?/第4部 金融政策をどのように運営するか?/第5部 適切な金融政策運営には何が必要か?/第6部 近年の金融政策運営をめぐる論点

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2012年4月20日 (金)

池田信夫さんの『イノベーションとは何か』を読んでみた

池田さんの『イノベーションとは何か』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、最近評判の悪い池田さんの本である。

なぜ評判が悪いかは、ここに書くまでもないが

エネルギー問題を客観的に論じているつもりが

いつの間にか原発擁護派ということで、批判に

曝されることになった立ち位置の取り方は

この本にも共通している気がする。

たぶん池田さんは頭が良い人なのだと思うが

残念ながら人間というものが分かっていない。

世の中のみんなが池田さんみたいな人なら

池田さんの言っていることも通じるのだろうが

実際にはいろいろな人がいるのだ。

この本の中でも、池田さんは自分の考えは必ず

正しくて、他人の成功は「まぐれ当たり」だと

いうことを平気で書いている。

「イノベーションの本質は技術ではなく、この

ビジネスモデルにある」とか、「イノベーションに

技術が不要だというわけではないが、すぐれた

技術が大きな利益をもたらすとは限らない」と

書いておきながら、ソフトバンクがADSL事業に

参入してから偶然新しい技術が見つかったので

「まぐれ当たり」だというようなことを書いている。

しかし、ビジネスモデルが重要であるのなら

モデムを無料で配るビジネスモデルが成功した

のであり、ADSLの技術が後から発見された

ことは問題ではないのではないだろうか。

ソフトバンクは、どのみち使える技術を探し当てた

はずであり、これを偶然と言ってしまうなら、

全てがそろってからでないとイノベーションは

起きないことになってしまう。

では、これだけ批判めいたことを書いてきた

この本を高く評価したのはなぜかというと、

とにかく分かりやすくまとめられていて、

批判的に読むととても面白く読めるからである。

結局のところ、イノベーションとは何かということが

分かっても、どのように生み出すかが分からな

ければ意味がないのではあるが、まず前提を

知っておくべきことは有益である。

そういった意味で、この本は読んでおく価値が

あると思う。

但し、池田さんが参考にした本を読んでいる人に

とっては、それほど価値はない。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 イノベーションはどこから生まれるのか/第2章 フレーミングの転換/第3章 プラットフォーム競争/第4章 ものづくリからアートへ/第5章 起業とファイナンス/第6章 成長のエンジン/第7章 知的財産権はイノベーションを高めるか/第8章 日本の挫折/終章 イノベーションの可能性

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2012年4月18日 (水)

森永卓郎さんの『ニュースのウラ読み経済学』を読んでみた

森永さんの『ニュースのウラ読み経済学』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、内容的には悪くないし、森永さんらしい

主張も満載で楽しめる。

ただ、タイトルの「ニュースのウラ読み」というのは

どうだろうか。

ほとんどTVのニュースを見ず、新聞もあまり読まない

私がいえる立場にないが、この本に書いてあることは

「ウラ」というよりは、真っ当な「オモテ」のことなのでは

ないだろうか。

これが本当に「ウラ」だとすると、「オモテ」はトンデモ

ナイことになっている気がするのだが、、、

特に面白かったところは次の2点。

1つ目は、P97からの、「政府紙幣」を発行せよ。

『日銀が通貨供給をする際は、国債などを購入して
その代金を日銀券で支払うという形をとります。
そして、国債の金利から日銀の経費を差し引いた
ものが、通貨発行益として政府に納められるのです
が、政府紙幣だと発行額から諸経費を引いた分が、
まるまる政府の造幣益となるので、その分も景気
対策に活用できるのです』

この後の政府紙幣を使ったコストゼロの景気対策が

森永さんらしくて面白い。

50兆円を発行し、財政出動に25兆円、市場を通じて

国内株式を買うのに25兆円。

2009年末の株価は安いから、いずれ株価は2倍に

なって、50兆円で売れるのでコストゼロ。

その2倍になった株価を買い支える人が誰なのか

書かれていないところが、この話のミソ。

2つ目は、P171からの、多少無理しても家を買って

おこう。

デフレで年収の5倍で家が買えるようになったので

家は買うべきだという意見。

ただ、価格が安くなっただけが理由ではないというが

その他の理由が、ちょっと考えさせられる。

①賃貸物件だと収入が途絶えたとき家賃が払えず、
 仕事と家を同時に失ってしまう。
②高齢になると家賃を払う資力があっても、家主が
 家を貸したがらなくなってしまう。

①は、ローンを組んで買えば、やっぱりそのうち

出て行かなくてはならないので、あまり理由になら

ない気もするが、②は、実際に起きていることなので

意識してもいい理由かもしれない。

まあ、家を借りるか買うかは、まったく経済合理性

とは関係ないところで決まるというのが私の意見

なので、年収の5倍が買うのに適しているかどうか

は正直わからない。

けれど、家を買うのはナンセンスだという意見が

多い中で、あえて家を買うべきだという意見は

これまた森永さんらしくて面白かった。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 国際経済の真相を見抜け(「リーマン・ショック」の真相/アメリカ型「金融資本主義」の終焉 ほか)/第2章 日本の経済政策は信頼できるか(「日本の財政」は大丈夫か/「消費税」増税は無用 ほか)/第3章 ニュースや新聞を深読みせよ(官僚の「天下り」を阻止せよ/「日経平均株価」は一万六〇〇〇円になる ほか)/第4章 モリタク流生活防衛のススメ(会社はビジネススクールと心得よ/生き残りたければ新聞の横読みをせよ ほか)

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2012年4月16日 (月)

中原圭介さんの『勝ち切る投資』を読んでみた

中原さんの『勝ち切る投資 お金の神様2』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、『お金の神様』の続編に当たる本です。

著者の中原さんも書いているとおり、雑誌連載もの

としては「すぐには古くならない内容」が選ばれていて

古さは感じないが、逆に切れ味の鋭さを欠いている

感じは否めない。

確かに読みごたえはあるが、「勝ち切る投資」と

言うには、現在の状況は難しすぎる。

まず、国内外に不安要素が多いため、しばらくは

耐えて守る投資にならざるを得ないのではないか。

「下がりにくい銘柄を選ぶ」ことや、「国策銘柄」に

投資するのが賢明だというのは仕方がない。

また、中原さん自身も専門家やエコノミストの意見を

ただ鵜呑みにしていてはいけないと書いているが、

今後数年で日本の状況が悪化するので、世界の

投機マネーが「日本売り」を始め日本がギリシャ化

してしまう可能性が高いという予測は、どうだろうか。

円安で利益を上げる海外売上比率の高い企業を

有望な銘柄としてリストアップしているが、本当に

円安になることはあるのだろうか。

日本がギリシャ化してしまったときに、日本企業の

株が買われるとは考えにくいが、いかがなものか。

もちろん、提示された方法論を参考に投資に対する

考え方を身に着けることが肝要だという中原さんの

指摘はもっともなことだと思う。

また、当たっている指摘が多いだけに、私と違う

見解に対しては疑問に感じることが多いのだと思う。

全体としては、読みやすく良い指摘が多い本である。

まあ、そんなことはないと思うが、もし日本が

ギリシャ化した際には、この本の評価を3から5に

引き上げなければならないだろう。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 「逆張り」は危ない!/第2章 終身保険は消えゆく消品!/第3章 金はまだまだ買われる!/第4章 「日本売り」がメインディッシュだ!/第5章 アメリカのミニバブルは最終局面!/第6章 買うなら「国策銘柄」だ!/特別付録 日本が「ギリシャ化」しても買える銘柄

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2012年4月15日 (日)

中原圭介さんの『お金の神様』を読んでみた

中原さんの『お金の神様 資産を守る、
投資で儲ける!』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、資産運用や経済に関する質問に答えた

雑誌連載のものに「検証コラム」を加えた本です。

中原さん自身は雑誌掲載時から株式の銘柄を出す

ときも、「なぜそれを選ぶのか」という考え方を伝える

ほうに重点を置いたと書いているが、やはり読む

ほうからすると、古さを感じることは仕方がない

ところだろう。

副題にもある「投資で儲ける」ということに関しては

いわゆる「楽して儲ける」ための本ではなく、真面目

に働いて収入を得ることを前提としたうえで、

「資産を守る」ための慎重な投資をすすめている。

ただ、何と言っても中原さんの魅力は株式の推奨

銘柄の的確性にあるというのが私の感想である。

もちろん、その銘柄を推奨するに至るプロセスや

経済に対する考え方も、エコノミストの中では

しっかりしていて信頼にたるものである。

たとえば、章のタイトルになっているような「保険は

掛け捨てで十分」とか「住宅ローンは借りるな」など

についても、結婚して子供がいたりすると必ずしも

経済合理性だけに基づいて判断できるわけでは

ないので、全ての人に共通するわけではないし、

中原さん自身もそんなことは主張していない。

全体としては、とてもよくまとまっており、

先見性に富んだ、良い内容の本だと思う。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 保険は掛け捨てで十分!(マンションの「買い時」はいつ?/「景気の底打ち」宣言を信じていい? ほか)/第2章 REITビジネスは終わった!(企業年金って、ちゃんと出るの?/もっとも大きく損した経験は? ほか)/第3章 住宅ローンは借りるな!(戦争が起きたら、何が買われる?/尊敬する投資家は? ほか)/第4章 毎月分配型は世界の非常識!(高成長を続ける中国に死角はない?/絶対に買ってはいけない銘柄は? ほか)/第5章 頭と尻尾はくれてやれ!(ギリシャ危機は誰の責任?/外国人はなぜ安値で日本株を売るの? ほか)

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2012年3月27日 (火)

太田創(オオタツクル)さんの『ETF投資入門』を読んでみた

太田さんの『ETF投資入門
上場投信・徹底活用ガイド』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、「短期(デイトレード)」でも「長期(バイ&

ホールド)」でも使え、「売り(ショート)」にも「買い

(ロング)」にも対応できるETF(上場投資信託)の

ことが分かる入門書である。

たしかに、ETFについて基本的なことは大体

この一冊で理解できると思う。

けれども、それ以上に踏み込んだ内容ではない。

ETFは手数料が安く、仕組みが理解しやすい商品で

代表的な指数に連動した運用を目指すもので、

値動きも理解しやすい。

しかも、個別株式と違い倒産などの危険もない。

運用に加えたい商品ではあるが、この本にある

「具体的な投資法」だけでは心もとない。

ちなみに、「必殺!ヒラメ戦術+ドルコスト平均法」

として紹介されている投資法は、まずはドルコスト

平均法で毎月決まった金額を購入し、後は年に

数回起こりうる大幅な下落局面をヒラメのように

じっと待って購入単価を下げるというもの。

ただ、この方法は下落局面から必ず運用期間内に

回復するということが前提であり、日本株のような

長期の下落局面が続く相場には、あまり向いて

いないように思う。

もちろん、そこらへんのことは事前に調べて投資を

しろということで、各種指標の見方なども紹介されて

いるわけだが、常に正しい判断ができるわけでは

ないし、そもそも未来のことは誰にもわからない。

私もインデックスファンドを積み立てているので

戦略としては十分理解できるが、本にするからには

さらにもう一歩踏み込んだ解説が欲しいところである。

内容的にはETFそのものをこれから勉強したいという

人向けの1冊。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 ETF(上場投信)とは何か(なぜいま、ETFが注目されるのか?/ETFの仕組みと市場規模/ETFと投資信託の違い/パッシブ運用かアクティブ運用か/ETFが生まれた歴史的背景)/第2章 拡大する市場-21世紀はETFの時代(日本で上場されているETFと上場予定のETF/日本で販売されている海外ETF/世界の資産運用会社のETF戦略)/第3章 ETFの具体的な投資法(トレーディング/ドルコスト平均法/信用取引/リスク管理の重要性/ETFによる国際分散投資ポートフォリオ組成/必殺!ヒラメ戦術+ドルコスト平均法/ディフェンシブ・ポートフォリオの構築)/第4章 ETF投資とマクロ経済(マクロ経済動向の見方/主要な経済指標を知る/商品(コモディティOの価格動向もチェック)/第5章 ETF投資の心理学(メンタル・コントロールの重要性/投資成果は感情のコントロールで決まる/メンタル・リスクを回避せよ/投資家の性格別投資法/ETFは倒産しない)

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2012年3月26日 (月)

ウィリアム・パウンドストーンさんの『天才数学者はこう賭ける』を読んでみた

ウィリアム・パウンドストーンさんの『天才数学者はこう賭ける
誰も語らなかった株とギャンブルの話』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、とにかく膨大な記述で、内容は興味深いが、

ギャンブルの賭け方の説明に行くまでにギャングの

ノミ行為から、通信の歴史までを盛り込んでいるので、

必勝法を知りたい人向きの本ではない。

クロード・シャノンやエドワード・ソープを中心とした

天才数学者のマーケットなどへの取組みも、

冗長さに付き合えるなら面白く読める。

ケリー基準などの投資法は特に参考にはならない。

設定した条件次第で必勝法がまったく使い物にならない

ということはよくあるが、この本に書かれたものも

まったく常識から外れた条件設定で利益がマイナスと

いうことも生じてしまう。

数式も出てくるが、必勝法としてというよりは、

物語の装飾としてという感じが強い。

ただ、投資と数学者の物語としては興味深い。

そういう意味でなら、おススメの1冊である。

【目次】(「BOOK」データベースより)
プロローグ 電信サービス/1 エントロピー/2 ブラックジャック/3 裁定取引(アービトラージ)/4 サンクトペテルブルグの賭け/5 RICO法/6 破裂/7 シグナルとノイズ

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2012年3月25日 (日)

上念司さんの『日本は破産しない!』を読んでみた

上念さんの『日本は破産しない!』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、辛坊兄弟の『日本経済の真実』や藤巻健史

さんの『日本破綻』が語る「国家破産本」とは違う、日本

は破綻しないということを分かりやすく解説した本。

今仮に国家破産の定義を「国債の償還ができなくなる

こと」としたとして、日本がアルゼンチンやギリシャの

ようになってしまうかという検証は面白い。

結論だけ書いてしまうと、固定相場制の国では国家

破産がありえるが、変動相場制の日本では円安になる

だけで国家破産のしようがないというもの。

まあ、解説を読めば確かにそのとおりでしょうという

以外にない。

日本には資産もまだたくさんあるので借金は深刻な

状況ではないということも、隠れ負債がないという前提

に立てば、肯定できる。

ただ、「政府の負債」は「国民の資産」という単純すぎる

図式は、ちょっと納得がいかない面もある。

国債を発行した分だけ政府が資産を蓄えたなら問題は

ないと思えるが、浪費しただけで何も残っていないので

あれば、それを資産としてよいものだろうか。

確かに、「政府の債務」は「国民の債権」かも知れない。

しかし、それが不良債権となることはありえる。

これほど杜撰な財政政策しか行わない政府が作った

日本のバランスシートが正しいものであると信用する

なんて、どこか変な気がする。

上念さんもこの本の後半では、デフレからの脱却を

早く政府は行うべきであると、日銀の金融政策とともに

政府を批判しているにもかかわらず、その政府が

出してくる資料は正しいことが前提だなんて、

何だか少し腑に落ちないが、まあそれは別の問題か。

また、後半のデフレの解説も、とにかく分かりやすい。

デフレはモノとお金のバランスがお金不足によって

崩れて発生する現象であり、魅力的な商品がない

とか、人口が減ったからとかいうことは原因ではない

という。

これも解説を読めば確かにそのとおりでしょうという

以外にない。

ただ、ここでもちょっとした勇み足が気になる。

人口減少は関係ないといっておきながら、人口が

減ることは将来的な労働投入量の減少を意味する

から、どちらかというとモノの供給が減る要因だ

という解説。

ここは、はっきりと人口減少はモノへの需要を減らす

一方で、モノの供給も減らすのでデフレには関係ない

ということでよかったのではないだろうか。

そんな細かいことを気にしつつも、とにかく面白くて

ためになる内容である。

私の年金暮らしの親でさえ、増税やむなしという考えに

傾いているこの時期にこそ読んでおきたい1冊である。

【目次】(「BOOK」データベースより)
はじめに 日本は破産しません/第1章 「国家破産」に騙されるな/第2章 国家破産論への反駁/第3章 今すぐデフレを脱却せよ!/第4章 明るい未来のために、われわれができること/おわりに 失いかけていた希望を取り戻した日に

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2012年3月23日 (金)

ダニエル・カーネマンさんの『ダニエル・カーネマン心理と経済を語る』を読んでみた

ダニエル・カーネマンさんの
ダニエル・カーネマン心理と経済を語る』を読んでみた

 (5つが最高)

この本は、行動経済学の基礎を固めたダニエル・

カーネマンのノーベル賞記念講演や自伝を

1冊にまとめて出版されたものである。

ダニエル・カーネマンはもともとは心理学者であり、

プリストン大学名誉教授である。

2002年にノーベル経済学賞を「心理学的研究から

得られた洞察を経済学に統合した功績により」受賞。

イスラエル軍での兵役を務めたのち、米国へ留学。

カリフォルニア大学バークレー校で心理学の博士号を

取得後、その研究が行動経済学の誕生とノーベル賞

受賞につながった人物である。

残念ながら共同研究者のトヴェルスキーは1996年に

病死しているためノーベル賞の受賞には至らなかった。

そして、カーネマンの生み出した「行動経済学」の主張は

「人間の非合理性」を強調するものなどではなく、

人間が不確実な状況下で下す判断や意思決定には、

合理的ではないが、ある種の傾向が見られるということを

主張するもので、それが「人間の限定合理性」ということだ。

そのため、完全に合理的な人間を仮定する旧来の経済学

には不都合かもしれないが、人間の行動がまったくの

非合理的なもので、とらえどころがないわけではない。

カーネマンの行動経済学関連の業績をまとめると

次の3つになる。

①ヒューリスティクとバイアスの研究
②プロスペクト理論に関連する研究
③効用概念の再検討と幸福に関する研究

その中で、ノーベル賞記念講演で触れられている

プロスペクト理論に関する箇所では次のように

述べられている。

『プロスペクト理論には、効用関数ではなくて、
価値関数というものがあるんです。(略)
これには二つ重要な特徴があります。それは、
不確実な状況で人が選択をする時にどういう
行動をとるかについて、二つのまったく新しい
予測を伴うものです。最初の特徴は、私たちが
「損失回避性」と名付けたもので、人は何かを
得る時よりも、何かを失う場合の方に強く反応
するというものです。実際、この反応は二倍も
強いのです。(略)
もう一つ、(略)人が意思決定をする時、損失の
領域、つまり負の選択に直面した時にはリスクを
追求する傾向があり、逆に利得の領域では
リスク回避的であるということです。』

これは、株式投資などで、利が乗るとすぐに売却

したくなり、含み損が出ると必ず戻るはずと粘って

しまうことにピタリと当てはまる。

そのほかにも、この本の内容は充実している。

もちろん、行動心理学の解説書などのような包括的な

説明でないことは、本のスタイルからして仕方がない

ことだが、私のように行動経済学に興味をもった人が

カーネマンとトヴェルスキーの著作を読んでみたいと

邦訳を探しているなら是非読むことをオススメする。

【目次】
第1章 ノーベル賞記念講演 限定合理性の地図
第2章 自伝
第3章 効用最大化と経験効用
第4章 主観的な満足の測定に関する進展

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